身体が硬いとか柔らかいとか②~不都合な真実編~
前回のコラムの続きです。
前回は、体の柔軟性を求めすぎることはリスクを伴うことについて書きました。
しかし!
硬くても良いわけではないという、年を重ねることに対する不都合な真実についてお話します。
年を重ねることと共に気を付けたいその不都合な事実とは?
それは、私たちが生きていく上で欠かせない「食べる」という行為に、深刻な影響が出てくる可能性があるということです。
年を重ね、体を支える筋力が落ちてくると、多くの方の背中は自然と丸まっていきます。いわゆる「猫背」の状態ですね。

でも、私たちは前を向いて世界を見たいですよね。
すると、体は無意識にバランスを取ろうとして、丸まった背中の代わりに「首をぐっと反らせる」ことで視線を水平に保とうとします。これが、多くの高齢者に見られる姿勢のパターンです。
この「首が反った姿勢」「猫背」が日常になると、首の後ろの筋肉はずっと縮こまったまま固まってしまいます。これが、前回のコラムで書いた「硬いことで弊害があったら少し柔らかくした方がいい」とお話しした、まさにその「弊害」につながるのです。
首の後ろが硬直すると、自然とアゴが上がった状態になります。試しに今、わざとアゴをぐっと上げて、唾を飲み込んでみてください。…どうですか?なんだかすごく飲み込みにくくないですか?
この「飲み込みにくさ」こそが、専門的に言う「嚥下(えんげ)機能の低下」です。そしてこれが、高齢者の命を脅かすこともある「誤嚥性肺炎」の大きな原因の一つだと、この論文では示唆しています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/64/1/64_13/_pdf/-char/ja
研究によれば、誤嚥性肺炎を起こしやすい方は、そうでない方に比べて、首を前に倒す動き(アゴを引く動き)が明らかに苦手だったそうです。

だからといって、無理やり首をストレッチして、バレリーナのように柔らかくする必要は全くありません。それは、前回のコラムでお話ししたように、かえって関節を痛める原因になります。
ここでヨガが素晴らしい役割を果たしてくれます。
ヨガのアーサナ(ポーズ)は、過剰な柔軟性を手に入れることではなく、日常生活や生命維持に必要な「適正な可動域」を保つことが重要です。つまり、「硬くなりすぎない」しなやかな状態を維持することで十分なんです。
例えば、首の後ろを優しく伸ばし、アゴをそっと胸に近づけるような動き。これは、縮こまった首の筋肉を本来の長さに戻し、食べ物を安全に飲み込むための正しい頭の位置を、体に思い出させてくれます。また、胸を開くポーズは、姿勢の根本原因である背中の丸まりにアプローチし、首が無理に反る必要のない、健やかで美しい姿勢へと導いてくれます。
ヨガは、誰かと柔らかさを競うものではありません。加齢という自然な変化の中で失われがちな「機能」を、穏やかに、そして着実に自分の体に取り戻していくための、賢いツールなのです。
人生の最後まで自分の口で美味しく食事を楽しむこと。そのために、ヨガを通して首周りの「機能的なしなやかさ」を保っていくことは、私たちが自分自身に贈ることができる、最高のプレゼントなのかもしれませんね。
年を重ねることで、体に起きる変化は受け入れつつも、できるだけ自分の力で健全な体を保っていきましょう!!