ヨガインストラクターとして大学院で何を学んだのか?その研究対象とわかったこと
前回のコラムでは、長年の疑問を解消するために高野山大学大学院へ入学し、学術的な研究の道へと足を踏み入れた経緯をお話ししました。
今回は、私が大学院の修士論文で取り組んだ研究と、そこから見えてきた「ヨガの本質」についてのコラムです。
『ヨーガ・スートラ』と密教経典の対峙
大学院で私が取り組んだ研究テーマは、『『ヨーガ・スートラ』における密教経典への影響の考察 ~三昧、悉地を中心として~』というものでした。
ヨガの根本聖典として広く知られる『ヨーガ・スートラ』と、のちの時代に花開いた「密教経典」。
歴史的には『ヨーガ・スートラ』の方が200年近く古いとされています。
では、その教えは密教へどのように受け継がれたのか。「三昧(サマーディ)」や「悉地(シッディ=成就・超常的な力)」を軸に、両者の関係性を文献に基づいて比較・検証していきました。
研究を進める中で見えてきたのは、三昧に対する捉え方の決定的な違いでした。
『ヨーガ・スートラ』が目指すのは、徹底した「自利(じり)」の世界です。どこまでいっても「自分自身の苦しみからの解脱」を求め、そのための手段として三昧が存在しています。もちろん暴力を行わない「アヒムサー(非暴力)」など平和的な教えは含まれていますが、それすらも「自分が解脱するため」のプロセスであり、根底にあるのは自身の心のコントロールでした。

一方、密教経典においては、なんと「すでに三昧の状態から修行が始まる」のです。そして、自分を超えた「他者のための働きかけ(利他)」を通してこそ、その三昧が種類を変えてより深化していくという構造を持っていました。
教授からの問いかけ「利他を探してみて」
研究の途中、指導教授であった松長学長から忘れられない言葉をかけられました。
「手塚さん、ヨーガ・スートラの中に『利他』を探してみてごらん」
私は聖典のページを何度もめくり、言葉の定義を細かく調べ、必死に「他者のための教え」を探しました。しかし、探せど探せど、そこには明確な「利他」の記述を見つけることができませんでした。
これは自分の中で結構ショックだったというか、誰かのための視点がヨガにはないという事実を明確に認識し、密教のほうが広める教えとしては素晴らしいのではないか?と思うようになっていきました。
文献の厳密な照合を行った結果、最終的に『ヨーガ・スートラ』が密教経典へ直接的な影響を与えたという確定的な証拠を得ることはできませんでした。
しかし、この研究を通して非常に大きな気づきを得たのです。 もし仮に、古代のヨガの思想が密教へ何らかの影響を与えていたのだとするならば——それは、自分ひとりのための「自利の三昧」を、他者を救い活かすための「利他の三昧」へと進化・深化させたプロセスそのものだったのではないか、ということです。
「自利」を超えて、「利他」のヨガへ
この研究は、私自身のヨガ指導に対する姿勢を根底から変える体験となりました。
ポーズを深めることも、心を静めることも、始まりは「自分のため(自利)」で構いません。しかし、自分自身の心が整った先には、必ず「目の前の人を大切にする(利他)」というフェーズが存在します。
「先生の自己満足」や「ポーズの美しさ」にとらわれる指導は、言わば未熟な自利の段階で止まっている状態です。真のヨガ指導とは、自ら整えた心と体をもって、生徒さんの健康や幸せに貢献していく「利他」の実践にほかなりません。
学術的な研究を通して聖典の限界と進化の歴史を知ったことで、私はようやく「どんな背景の元、ヨガが生まれ、また本当の意味でヨガとは何なのか?」ということを理解することができたのです。(でもまだまだ理解を深めるべきことがいっぱいあります!)
そして今私はどんなヨガを伝えるのか?
大学院での研究により、ヨガには自利の要素が強い部分に関して少し抵抗を覚えたのも事実でした。
それを松長学長に伝えると「自利がなければ利他もない。あなたは利他のヨガを広めたらいいんだよ。」と助言をいただきました。
”ヨガの正しい哲学を広めると同時に、自利を以て利他につなげる”
これは私のモットーになりました。
自分の心地よさも大事にしながら、そのエネルギーを他者に向けられるように。
もしくは、他者に向けられるほどのエネルギーを私のスタジオで作り上げられるように、私にしかできないヨガクラスをこれからも積み重ねていきたいと思います。
【ヨガインストラクター 手塚えりか】
整体師歴22年、ヨガインストラクター歴18年。ヨガが好きすぎてインド哲学を学ぶため高野山大学大学院(密教学専攻)修士号取得。ファンクショナルローラーピラティスベーシックインストラクター、マタニティヨガ、アスリートヨガ指導、瞑想指導者資格保有。ファンクショナルローラーピラティスベーシックインストラクター。年間延べ9000人ほどの生徒を指導。 山梨県昭和町 yogaschoolTSUNAGU:
https://tsunagu-yoga.com/